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麻酔の今・昔

最近の医療事故のニュースを見聞きされ、手術や麻酔を受ける方は不安を感じていらっしゃることでしょう。
麻酔とは手術中に患者さまが痛みを感じないように、また手術に伴って生じるさまざまな有害反応を抑制し、手術経過を順調にすることが目的です。身体中のほとんどの皮膚、臓器には知覚神経があり、何らかの刺激を受けると神経が興奮し、その興奮が脊髄などを通って脳に達して痛みの感覚になります。その興奮をどこで遮断するかにより、麻酔方法が違います。
約30年前あるいはもっと以前の麻酔というのは、後述するように少々恐ろしいものでした。しかし,この間の医療分野、その中でも麻酔の薬剤、器具、測定機器などの進歩はめざましく、それに伴い麻酔方法も変化しています。

昔は麻酔科がある病院はわずかで、あっても手術の麻酔のみ行っていました。しかし、今は手術の麻酔以外に、痛みで悩んでいる方を専門に治療するペインクリニック、合併症を持つ患者さまの集中治療を行う部門など、麻酔科が活躍する場所も増えています。ここでは手術の麻酔に関する最近の話題を述べます。

麻酔器具の開発

長時間の全身麻酔では気管の中に管(気管挿管チューブ)を通し、手術中は人工呼吸を行って管理します。短時間の手術の全身麻酔ではこれまでは顔にあてたマスク(フェイスマスク)を左手持ち、換気するためにゴムのバッグを右手でおすしかありませんでした。約20年前に英国でラリンジアルマスクという器具が開発されました。これは気管の中までは入れず、声帯の手前に挿入して呼吸させることができます。フェイスマスクと比べて持たなくて良いので麻酔科医の片手があき、しかも気管挿管に伴う嗄声や歯の損傷などの合併症も避けられるます。当院では手術内容によってラリンジアルマスクを全身麻酔に応用しています。

監視装置(モニター)の発展

以前は全身麻酔中に気管挿管チューブが折れたり、人工呼吸器の接続がはずれたりしてもチアノーゼが出て、心臓が止まりそうになるまで気づかれないことがありました。また手術中に体温が非常に下がって麻酔から覚めにくかったり、逆に悪性高熱症といって手術中に高熱が出て、体が硬直し不整脈が出て死に至るような特殊な合併症もあります。しかし、現在では心電図、経皮的酸素飽和度測定器(血液中のヘモグロビンにどれだけ酸素が結合しているかを測定する器械)、呼気終末二酸化炭素分圧測定器(気道から吐き出す呼気中の二酸化炭素分圧から血液中の二酸化炭素分圧を推定する器械)、ディスポーザブルのカテーテルの体温計など患者さんに装着するだけでいろいろな情報が得られる様になり、異常を早期発見できるようになりました。動脈や心臓の中にカテーテルを挿入して血圧や心臓の機能を調べながら、また血液の中の酸素や二酸化炭素分圧を調べながら麻酔をかけることも可能になっています。
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