身体的拘束(抑制)適正化のための指針
身体的拘束(抑制)適正化のための指針
転落や各種チューブ類の自己抜去などを防止し、患者さまに安心で安全な医療を提供するにあたり、止むを得ず必要最低限の身体的拘束を余儀なくされる場合があります。一方で、身体的拘束は患者さまにとって弊害も多いため、その施行に際しては一定の指針を設けることが重要です。また、病院として組織的に身体的拘束を最小化する体制を整備することが求められます。
身体的拘束とは
医療を提供するにあたり、患者さまの身体を拘束し、その行動を抑制する行為を指します。
具体的には以下のようなものが挙げられます。
- 徘徊しないように、車椅子や椅子、ベッドに体幹や四肢をひも等でしばる。
- 転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等でしばる。
- 自分で降りられないように、ベッドを4点柵で囲み、柵をすべてひも等でしばる。
- 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等でしばる。
- 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける。
- 車椅子・椅子からずり落ちたり立ち上がったりしないように、Y字型抑制帯や腰ベルト、車椅子テーブルをつける。
- 立ち上がる能力のある人の立ちあがりを妨げるような椅子を使用する。
- 脱衣やオムツ外しを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる。
- 他人への迷惑行為を防ぐために、ベッド等に体幹や四肢をひも等でしばる。
- 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる。
- 自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する。
当院の身体的拘束に対する基本的な考え方
身体的拘束は患者さまの自由を制限するものです。当院では患者さまの人権を尊重し尊厳を守るため、身体的拘束を安易に正当化せず、医療に関わるすべての職員がその身体的・精神的な弊害につき理解し、緊急・やむをえない場合を除いて身体的拘束をしない医療の提供に努めます。やむを得ず身体的拘束を施行する場合は、漫然と継続することなく、必要最低限、必要最小期間にとどめる努力をします。
身体的拘束禁止の対象とはしない具体的な行為
肢体の不自由や体幹機能の障害があり、残存機能を活かすことができるよう、安定した体位を保持するための工夫として実施する行為等については、その行為を行わないことは適切で安全な医療を提供していないことになります。
具体的には以下のような行為を指します。
- 整形外科治療で用いるシーネ固定等
- 転落防止のための4点柵使用
- 点滴時のシーネ固定
- 自力で座位を保持できない場合に車椅子ベルト装着
- 身体的拘束をせずに患者さまを転倒や離院などのリスクから守る離床センサーなどの事故防止対策
身体的拘束を行わずに患者さまのケアを行うための方策
身体的拘束をせずに患者さまのケアを行うためには、なぜ拘束が必要になるかを特定し、それを改善することが重要です。また、ケアをする側の関わりかたや環境に問題がある場合もあります。患者さまの主体的な行動や、患者さまの思いを汲み取った精神的な尊厳の尊重は重要です。
身体的拘束を避けるためには人間としての基本的ケアを誠実に施行し、入院中であっても生活のリズムを整えることも重要です。重要な基本的ケアとしては、起きる、食べる、排泄する、清潔に保つ、活動する等が挙げられます。
規則正しく、人間的な尊厳を守れるように努力することで身体的拘束を最小限に減らす努力をします。
やむを得ず身体的拘束を行う場合
患者さま又は他の患者さまの生命又は身体を保護するための措置として、以下の3つの要素をすべて満たす場合には、患者さまあるいはご家族への説明同意を得た上で、やむを得ず例外的に必要最低限かつ必要最小期間の身体的拘束を行う場合があります。
- 切迫性:患者さま本人又は他の患者さまの生命・身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと。
- 非代替性:身体的拘束、その他の行動制限を行う以外に代替する方法がないこと。
- 一時性:身体的拘束、その他の行動制限が一時的なものであること。
緊急・やむを得ず身体的拘束を行う場合には、医療従事者は十分な観察を行い、経過記録をおこない、できるだけ早期に拘束を解除する努力をします。
具体的な方法は以下のとおりです。
- 記録、集計、分析、評価をおこない、拘束に至った患者さまの状況、理由、拘束様態、時間につき医療チームで情報を共有する。
- 身体的拘束が必要な場合には、患者さまやご家族に、拘束の内容、目的、理由、期間、改善にむけた取り組みにつき説明を行う。
- 医療チームの日々のカンファレンスにおいて、切迫性、非代替性、一時性の3要件をすべて満たしているかの確認を行い、早期の拘束解除にむけた取り組みを検討する。
身体的拘束適正化のための体制
身体的拘束適正化のために、当院では医師、看護師を含む多職種で構成された身体的拘束適正化チームを設置しています。身体的拘束適正化チームでは、身体的拘束の実施状況を定期的に把握し、管理者(病院長)を含む職員に周知し、改善に向けた方策を検討します。
身体的拘束適正化チームにおける活動としては以下のものが挙げられます。
- 院内での身体的拘束廃止に向けた現状把握および改善についての検討。
- 身体的拘束を実施せざるを得ない場合の検討。
- 代替案、拘束解除の検討。
- 職員全体への指導および教育。
- 発生原因およびその結果をまとめ適正化につなげる。
具体的な活動として以下の活動を行います。
- 各病棟における、のべ入院患者数、のべ拘束患者数を毎日集計する。
- 医療安全部にて1ヶ月ごとの身体的拘束率を集計する。
- 3ヶ月毎に身体的拘束適正化委員会を開催し、現状把握および改善について検討する。
- 身体的拘束状況報告書を作成し、病院長を含む職員に周知を徹底する。
- 当該担当職員に対し、1年に1回以上の学習教育を施行する。
本指針は身体的拘束適正化チームでの検討事項を反映して、定期的に見直しを行いさらなる身体的拘束の最小化につなげます。
また、この指針は当院職員が閲覧可能とするほか、入院患者さんおよびそのご家族が閲覧できるように当院ホームページにも掲載します。